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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

トンガに揺られて

                ≪九月二十一日≫     -爾-

  いつの間にか、星の奇麗な暗闇の中を列車は快調に走っている。
 日本では見ることができない、星の絨毯を眺めていると、日本が思い出されてくる。
 今、俺のいない日本がある。
 俺がいなくなったことを、誰も知らない。
 いつもの日本が、動いている事だろう。
 後何時間かすると、あいつもこの星空と同じ天空の星を眺める事だろう。
 星が見える数は比べものになりはしないけど・・・・。

 もうすぐ列車はペシャワールに到着するはずだ。
 列車のイスは、インドのものとは違って、柔らかいイスなので長旅にはもってこいだ。
 しかし、昼間の埃っぽさと言ったら無かった。
 目・のど・鼻が歪んでしまいそうだった。
 唇が乾くのか、ジュース類やチャエを随分と口にした。
 食事はインドに入ってからずっと、満足のいくものは全然取れていないような気がする。
 しかし、病気にならないから不思議だ。
 日本から持ってきた抗生物質のせいか?

 午後九時十五分、ペシャワールCityへ到着。
 地図を見ると、ペシャワール駅には、City駅とCant駅の二つがあることになっているらしい。

       俺  「どっちで降りれば良いんだろう?」

 迷った挙句、City駅で降りる事にした。
 降りてみて早速後悔の念が・・・・・。
 降りる人も少なく、駅も小さく、構内はひっそりとしているではないか。

       俺  「待てよ!こんな寂しい駅で降りていいの?次のCant駅で降りるのが本当じゃあないの?」

 そんな事を思いながらも降りてしまった。
 駅の構内には二、三人の人しかいない。
 駅前にはトンガ(馬車)が一台俺のために停まっていた。???
 日本で言えば、さしずめタクシーと言ったところか。
 駅の構内でチャエを一杯飲み乾して、落ち着いたところで待たしておいた?トンガに乗り込む。
 本当に何もない寂しい所に駅がある。

 こうしてトンガに揺られていると、ネパールとインドとの国境を馬車で渡ったことを思い出してしまった。
 しかし、そんな寂しさと不安はすぐ吹き飛んでしまった。
 トンガに10分も揺られていると、街らしい街が現れてきて、さっきまでの静けさが嘘のようだ。
 街の中央をアジア・ハイウエーが貫き、明るく清潔そうな街が姿を現したのだ。
 それも突然。

 このアジア・ハイウエー、砂漠の町に似合わない舗装された・・・・日本で言えば、ガード・レールもない田舎道なのだが・・・道路だ。
 話によると、アメリカとソ連が半分ずつ造った道路だと言う。
 大国のエゴで造られたハイウエーが目の前に横たわっている。

       俺      「いくら?」
       馬車のおっさん「2Rp(68円)ね。」
       俺      「サンキュー!」

 トンガを降りると目の前は宿だった。
 話によると、カブール行きのバスもこの宿の前から出ているとか。
 宿に入る。

       俺   「部屋は空いてますか?」
       マスター「空いてるよ!泊まるのかい!」
       俺   「一泊いくらですか?」
       マスター「5Rp(170円)だ。」
       俺   「お世話になります。」

 案内された部屋に入ろうとすると、毛唐が一人、何やら深刻な表情で警官と話しているのが目に入ってきた。
 何か取られたのかも知れない。
 部屋に入ると、マスターが話しかけてきた。

       マスター「日本製品を売らないかい?カメラでも時計でも良いけど・・・・。」
       俺   「売り物はない。」
       マスター「ハッシッシはどうだ?」
       俺   「今はいらない。」
       マスター「両替は済ませたのかね?」
       俺   「有難う、済ませてあります。大丈夫ですよ。」

 人別長に名前を書いて、夜の街に繰り出す事にした。
 荷物を肩から降ろすと、ホッとする。
 コーラが氷に冷やされていて、乾いたノドを潤してくれる。
 さっきポリスと深刻な話をしていた毛唐が、宿の入り口の石段の上で、かなり激しく咳き込んでうずくまっている。
 顔を覗き込むと、かなり痩せこけていて、何かの病気にかかっている病人と言う感じがして哀れに思えてくる。
 たぶん、C型の急性肝炎にかかっているのだろう。
 この地域では、旅行者は必ずやられる病気である。
 風の便りでは、ヒッチハイクの仲間も、この肝炎にやられた人がいるとか。

 日本を出るときからその情報は、掴かんでいた為、タイで予防注射をしてきたし、日本から大量の抗生物質を持って来ておいたのが、功を制したのかもしれない。
 風邪とか少々の下痢には悩まされるが、身体の調子は良いようだ。
 これまで。酷かったのは、香港の下痢とネパールの南京虫ぐらいなものだ。

 夜の街をぶらつくと、地元の人達が声をかけてくる。
 若いやつらは、”中国人か?”と、老人達は”日本人だろう!”と気楽に声をかけてくれる。
 夕食を取ろうとレストランを探すが見つからず、仕方なく宿の近くで大きな鉄鍋で揚げ物を作っているのが見つかったので、それをいくつか手に入れて、ジュースとあわせて今日のディナーとしよう。

 部屋のベッドはラホールのものと同じで、寝心地は良さそうだ。
 宿の従業員だろうか、ベッドを外に出して、外で眠っている。
 明日の予定は、アフガニスタンのビザを取る事と、旅の汚れを落としておくべく洗濯が待っている。
 中近東の最大の難所である、アフガニスタンを無事抜けられるよう、英気を養っておかなくてはならない。
 そのためにも、暫くはゆっくりしたいもんだ。




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